戸田先生の獄中闘争(3)(二撃)

 高輪警察署に留置されてから二週間経った七月二十日の朝、次に、桜田門と向き合っている警視庁の留置場へ移されました。
 九月初めのある日の午後、取調べが済んで留置場へ入ろうとして、入口へきた時、中から出てきた牧口先生に、一瞬顔を合わせることができました。
 途端に、『創価教育学体系』 の中の田辺寿利氏の序文の一節が、ありありと想い出されました。

 「…… 一小学校長たる ファーブルは昆虫研究のために黙々としてその一生をささげた。学問の国 フランスは、彼を フランスの誇りであるとし、親しく文部大臣をして駕(が)を枉(ま)げしめ、フランスの名に於て懇篤(こんとく)なる感謝の意を表せしめた。一小学校長たる牧口常三郎は、あらゆる迫害あらゆる苦難と闘いつつ、その貴重なる全生涯を費して、終に画期的なる 『創価教育学』 を完成した。文化の国日本は、如何なる方法によって、国の誇りなるこの偉大なる教育者を遇せんとするか ……」
 巌さんは薄縁の上に坐っていて烈しい憤怒に包まれ、逞(たくま)しい身体を震わせている。
 (日本は、偉大なる牧口会長に投獄をもって報いようとしている
 その日、牧口常三郎が同じ留置場にいることが判ったので、巌さんはおよその方角へ向かってそれからは朝夕に、心の内で挨拶をはじめた。
  (戸田・人間革命下・196P)

 それからは毎日、「私はまだ若い、先生は七十三歳でいらせられる。どうか、罪は私一人に集まって、先生は一日も早く帰られますように」 と大御本尊に祈りました。
 その後、ここの刑事室で、… 牧口会長が刑事の取調べを受けているとき、話は出来ないが、父親のような会長の顔を泌々(しみじみ)と見ていられることは筆紙に尽くせない嬉しさであった、… と述べられています。

 〔二回目の難〕
 牧口先生が、東京拘置所に移されてから半月ばかりして、十一月十一日の午後、秋の日が落ちて、市街に夕霧が漂いはじめた頃、戸田先生も、牧口先生の後を追って東京拘置所へ入られました。
 拘置所の独房に入れられて、五日目には本と布団の差入れがあった。六日目の朝、目を覚まして起きようとしたら、ちくり 尻を刺すものがあって、布団へ手をやってみると針であった。
 (酷(ひど)くあわてて布団を縫って、粗相(そそう)をしたんだろう ……)
 その針の先で、薬の包紙へ文字の穴を開け、今度は、楊枝の先を噛砕(かみくだ)いた筆へ、お茶の葉を粉にして、飯粒と水で作った インクをつけて、その穴を塗っていくと立派に文字が書けた。そうして、法華経の一節を書いて楽しみにされました。そうしていたら、文字を書いていたことを、看守に見咎(みとが)められました。
 独房へ入れられる者は重大犯人あり、重大犯人には必ず連類者がいるもので、その連絡は紙でするか音でする。
 それを警戒し防ぐために、監獄には紙へ文字を書いた者を重罪にする特殊の法規があって、軽くても、両手を後ろに縛って、二週間は、自由に行動が出来なくするのだそうだが、先生は知らなかった。

 看守の顔の表情が異様に厳しかったことも思い浮かべて茫然となっていたが、布団から針が出てきたればこそ、文字を書く気にもなったのだから、二度と書く気の起らないように針を渡してしまうがよいと考えた。
 そこで釦を押すと、扉が開いた。
 「この針があったので、穴をあけて見ただけです。お渡しします」
 看守が嶮(けわ)しい眼で睨んだ。
 「どこにあった、この針は……」
 「ここにありました。私の入る前にあったのです。だから、お経の文句を書いてみたんです」
 看守は烈しい狼狽(ろうばい)の色を見せながら針をもって行った。
 囚人の自殺に針や紐は便利な品物で、独房には絶対に入れないことになっている。だから、このことが上司の耳へ入れば、看守の過失になって責任を問われるのだ。
 しばらくの間、看守たちが寄って話している声がぼんやり表から聞こえていたが、扉が開いて、針をもって行った看守の顔が覗いた。
 「出てこい
 巖さんは怒気を含んだ声を耳にして、酷(ひど)い目に遭う覚悟をして草履をはいた。
 「そこへ座れ 眼鏡を取れ
 巖さんが廊下に座って眼鏡を取ると、烈(はげ)しい平手打ちが四つばかり、左右の頬へきた。
 「おまえの大それた罪は、これで許してやる。針のこと、誰にもいってはならんぞ
 巖さんは焼けるような痛みを頬に感じながら房へ入ってきて、扉が閉じられると、胸を喘(あえ)がせて机へ突っ伏し、口惜し涙を落とした。 
 (同書・220P)

テーマ : 創価学会
ジャンル : 学問・文化・芸術

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谷 建二郎

Author:谷 建二郎
 
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北九州市小倉北区に在住 81歳
日蓮仏法と創価思想に関する私の教学的随想

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